
この記事のまとめ
- 訪問介護は在宅介護を行ううえで欠かせないため、なくなることは考えにくい
- なくなるといわれる理由は、介護報酬の引き下げや総合事業への移管など
- 訪問介護業界は、職員の高齢化や人材不足などの課題を抱えている
「訪問介護ってなくなるの?」と気になる方もいるでしょう。訪問介護事業所がなくなることは考えにくいので、今後も働き続けることが可能です。この記事では、訪問介護がなくなるといわれる理由や訪問介護業界の課題を解説しています。ホームヘルパーとして働く魅力も紹介しているので、訪問介護の仕事に興味がある方は、ぜひご一読ください。
ホームヘルパー(訪問介護員)とは?仕事内容や必要な資格、給料を解説訪問介護はなくなるの?
訪問介護の仕事は、なくなることはないといえるでしょう。訪問介護は高齢者の生活を支えるうえで欠かせないサービスです。介護が必要になった全員が介護施設に入居することは、施設のキャパシティの面からも難しいといえます。
部分的に介護サービスを活用することで、自宅で問題なく過ごせるという方は、訪問介護をうまく利用すれば、安心できる環境で生活を送ることが可能です。
訪問介護事業所の役割
地域包括ケアシステムにおいて訪問介護は、利用者さんが住み慣れた地域でできる限り長く暮らし続けられるようサポートする役割を担っています。
地域包括ケアシステムとは、今後も増加が見込まれる介護の需要に対応するために、地域の力を活用して介護サービスを提供できる環境を整えることを目的とした制度です。
訪問介護事業所からホームヘルパー(訪問介護員)が出向くことで、自宅に居ながら介護を受けることができます。訪問介護は、高齢者の社会参加を促すきっかけになることもあり、社会的意義のある仕事といえるでしょう。
また、訪問介護事業所を利用することで、利用者さんやご家族のリフレッシュや息抜きになることもあります。
訪問介護員(ホームヘルパー)の仕事内容
ホームヘルパーの主な仕事は、身体介護や生活援助、通院等乗降介助です。以下で、具体的な仕事内容を解説しているので、ぜひご一読ください。
身体介護
身体介護では、食事介助や入浴介助、排泄介助、更衣介助、移動・移乗介助など、利用者さんに直接触れる介護を行います。身体介護は、利用者さんの状態に合わせて適切なサポートを行うことが大切です。何でも手助けするのではなく、利用者さん自身でできることは、できる限り本人にやってもらうようにしましょう。
生活援助
生活援助とは、食事の準備や買い物代行、掃除、洗濯など、利用者さんに直接触れないサポートを指します。生活援助は、家事スキルを活かす業務がメインなので、介護経験がない方もできる仕事です。生活援助を行う目的は、あくまで利用者さんの生活のサポート。そのため、利用者さんのご家族に対する食事の準備や居室の掃除、庭掃除などの業務はできません。
通院等乗降介助
通院等乗降介助では、病院への送迎や受付手続きなどを行います。通院する方法は、公共機関や徒歩など、利用者さんによって異なるようです。なお、院内介助は基本的には、院内のスタッフが対応します。
ホームヘルパーの仕事内容について詳しくは、「ホームヘルパーの仕事内容を解説!訪問介護員の仕事範囲や必要な資格を紹介」の記事で解説しているので、あわせてご一読ください。
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訪問介護がなくなるといわれる理由
ここでは、訪問介護がなくなるといわれる理由を解説します。前述のように、訪問介護がなくなることはないといえますが、そのような噂が出回った理由を理解することで、安心できるでしょう。
介護報酬の改定による引き下げ
2024年の介護報酬の改定により、訪問介護の介護報酬が、2~3%ほど引き下げられました。介護報酬が引き下げられたことで、将来性に不安を感じ、なくなるのではないかという噂がでたのかもしれません。
しかし、訪問介護の介護報酬が引き下げられたのは、訪問介護の利益率が高いからです。厚生労働省の「令和5年度介護事業経営実態調査結果の概要(p.2)」によると、訪問介護全体の収支差率は、7.8%でした。
訪問介護以外の収支差率を見ると、特別養護老人ホーム(特養)は-1%、老健(介護老人保健施設)は-1.1%、デイサービスは1.5%程度なので、訪問介護の収支差率の高さがうかがえるでしょう。
このような事情から、訪問介護の基本報酬が以下のように引き下げられました。サービス時間ごとの単位数についてまとめているので、ぜひチェックしてみてください。
【身体介護】
変更前 | 変更後 | |
20分未満 | 167単位 | 163単位 |
20分以上30分未満 | 250単位 | 244単位 |
30分以上1時間未満 | 396単位 | 387単位 |
1時間以上1時間30分未満 | 579単位 | 387単位 |
以降30分を増すごとに算定 | 84単位 |
参照:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について(p.165)」
【生活援助】
変更前 | 変更後 | |
20分以上45分未満 | 183単位 | 179単位 |
45分以上 | 225単位 | 220単位 |
身体介護に引き続き生活援助を行った場合 | 67単位 | 65単位 |
参照:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について(p.165)」
通院等乗降介助は、99単位から97単位に変更されました。なお、1単位は10円程度です。
介護報酬や基本報酬が引き下げられることで、事業所の売り上げが減少する可能性があります。職員の給与にも影響を与える恐れから、訪問介護はなくなると思われたのでしょう。
出典
厚生労働省「第231回社会保障審議会介護給付費分科会資料」(2024年10月8日)
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」(2024年10月8日)
訪問介護事業所の格差問題
訪問介護事業所は、利益差率が高いとされていますが、実際は事業所間でも格差があり、利益は平等ではありません。大規模事業所の施設内訪問介護のみ黒字で、小規模な在宅訪問介護の事業所は赤字という傾向があるようです。
たとえば、サ高住などの入居型施設を併設している大規模事業所は、効率的に利用者さん宅を訪問できるため、利益がでやすい傾向にあります。しかし、小規模な訪問介護事業所では、利用者さんの自宅を一軒一軒訪問するため、業務効率が下がり利益が上がらない事業所もあるようです。
厚生労働省の「令和5年度介護事業経営実態調査結果(案)(p.4)」の訪問介護収支差率分布を見ても、プラスからマイナスまで幅広く分布していることが分かります。
出典
厚生労働省「第231回社会保障審議会介護給付費分科会資料」(2024年10月8日)
訪問介護の総合事業への移管
要介護1・2の訪問介護を総合事業への移管が検討されています。しかし、総合事業へ移管すると介護保険から外れてしまうことに。介護保険から外れると、訪問介護事業所の収入が減少する可能性があります。報酬額が下がれば、ホームヘルパーの給与へ影響を与える可能性もあるでしょう。
総合事業とは、市町村が中心となって、地域の実情に応じて介護サービスを充実させる取り組みです。サービス料金を市町村が決められるので、利用者さんへの負担が増加する可能性もあるようです。
訪問介護事業所の倒産数の増加
訪問介護事業所は、近年倒産する事業所が増加していることから、なくなるのではないかという意見があるようです。
東京商工リサーチの「介護事業者の倒産は 過去2番目、休廃業 ・ 解散は 過去最多の 510件 人手不足、物価高で「訪問介護」の倒産は最多更新」によると、2023年の訪問介護事業の倒産数は、67件で過去最多でした。倒産件数は増加傾向にあり、将来性に不安を感じている人もいるかもしれません。倒産数が増加しているのは、人手不足や利用者の減少による経営悪化などが原因として考えられます。
出典
東京商工リサーチ「介護事業者の倒産は 過去2番目、休廃業 ・ 解散は 過去最多の 510件 人手不足、物価高で「訪問介護」の倒産は最多更新」(2024年10月8日)
AIやロボット技術の発展
AIやロボット技術が発展することで、仕事がAIなどに取って代わられるのではないかという不安から、訪問介護がなくなるという噂があるようです。しかし、介護職は人と人の関わりが重要な仕事なので、すべての仕事が人からAIに成り代わることはありません。
訪問介護では、AIやロボット技術を採り入れ、職員の負担を軽減することで、より質の高い介護サービスを提供できるようになるでしょう。最新技術を効果的に活用することが大切です。
訪問介護業界の現状の課題
お伝えしているように、訪問介護の仕事がなくなることはないといえますが、訪問介護業界には課題があるのも事実です。どのような課題があるのかチェックしてみましょう。
初任者研修以上の資格取得が求められる
訪問介護の仕事は、介護職員初任者研修以上の資格取得が求められるので、無資格で働き始めることは難しいかもしれません。
身体介護を無資格者が行う場合、有資格者の監督が必須です。訪問介護では、基本的に利用者さんの自宅を1人で訪問するため、有資格者の監督がありません。そのため、初任者研修以上の資格取得を応募要件にしていることがあります。
無資格で入職し、働きながら資格を取得する方法もありますが、資格を取得しているほうが選考で有利になるでしょう。無資格で訪問介護事業所への転職を考えている方は、資格取得支援を行っている求人に応募するのがおすすめです。資格取得支援の求人一覧はこちら
拘束時間に対する給与の低さ
拘束時間に対して給与の低さも、訪問介護業界の改善すべき課題の一つです。
ホームヘルパーが、直接、利用者さんの自宅に行く場合、通勤扱いになってしまいます。通勤時間は勤務時間にならずに賃金が発生しないことから、不満を覚える職員もいるでしょう。
訪問介護の仕事は移動時間が多いので、移動時間が勤務時間に含まれない施設の場合、トラブルの原因になる可能性があります。働き始めてからトラブルにならないよう、事前に移動時間の扱いについて事業所に確認しましょう。移動時間の扱いが悪かったり、相談しても対応してもらえなかったりする場合は、転職を検討することも一つの方法です。
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ホームヘルパーの高齢化
ホームヘルパーの高齢化は、訪問介護業界の課題といえます。公益財団法人 介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書 資料編(p.13)」によると、訪問介護員(ホームヘルパー)の平均年齢は50.5歳です。ホームヘルパーとして働いている人は、40~50代が多い傾向にあります。一般的に、60歳や65歳が定年として定められているので、スタッフの高齢化が進めば職員の不足に拍車をかける可能性があります。
職員の高齢化は、介護業界全体でいえる問題でもあります。職員の高齢化への対策は、事業所側が行うべき課題です。若手スタッフが増えるように、給与アップや残業の軽減、休みの取りやすさなど、介護業界のイメージアップをすることが重要といえます。人材が定着するように職場の人間関係にも注意する必要があるでしょう。
出典
公益財団法人 介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査」(2024年10月8日)
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訪問介護員の人材不足
公益財団法人 介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書(p.34)」によると、事業所の8割以上がホームヘルパーが不足していると感じているようです。
従業員の過不足状況 | 過不足状況の割合 |
大いに不足 | 31.3% |
不足 | 28.4% |
やや不足 | 21.7% |
適当 | 18.5% |
過剰 | 0.1% |
参照:公益財団法人 介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書(p.34)」
職場の人手不足は、介護業界全体でも6割以上の事業所で人手が不足している状態です。事業所が介護職の労働環境の改善や外国人の受け入れなどをして、人材を確保する必要があります。
また、職業情報提供サイト(日本版O-NET)「訪問介護員/ホームヘルパー」によると、ホームヘルパーの有効求人倍率は30.96倍と、求職者数に対して数多くの求人があります。このことからも、ホームヘルパーが需要に対して足りていない状況であるといえるでしょう。
出典
公益財団法人 介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査」(2024年10月8日)
職業情報提供サイト(日本版O-NET)「訪問介護員/ホームヘルパー」(2024年10月8日)
訪問介護に対する認知度の低さ
訪問介護は、介護を必要とする利用者さんにとって欠かせない介護サービスですが、それ以外の人にとっては、認知度が低いこともあるでしょう。認知度が低いと、サービスの普及や人材募集の際に影響を与える可能性も。そもそも訪問介護について認知していなければ、転職先の候補に挙がることはありません。訪問介護の認知度を高めることが今後の課題といえます。
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訪問介護の仕事の魅力
訪問介護の仕事は、まだ課題もありますが、働く魅力も豊富にあります。ここでは、訪問介護の仕事の魅力を解説するので、興味がある方はぜひご覧ください。
利用者数が多く需要が高い
訪問介護の利用者数は多く、今後も需要が見込めます。厚生労働省の「訪問介護(p.11)」によると、2022年の訪問介護の受給者数は約1,068,100人。利用者数は、年々ゆるやかに増加しています。今後も需要が期待できるので、安定して働けることができるでしょう。
出典
厚生労働省「第220回社会保障審議会介護給付費分科会(Web会議)資料」(2024年10月8日)
資格取得でキャリアアップできる
介護福祉士実務者研修を取得すれば、サ責(サービス提供責任者)として働くことができます。サ責の仕事は、訪問介護計画書の作成やシフト作成、教育など。業務範囲が増えることで、新たな知識やスキルが身につき、キャリアアップにつながるでしょう。ホームヘルパーは、経験年数や年齢に関係なくキャリアアップしやすい点も魅力といえます。
在宅介護の専門知識が身につく
ホームヘルパーの仕事では、在宅介護の専門知識やスキルが身につきます。ほかにも、訪問先での状況に応じて臨機応変に対応する力が身につき、介護職としてステップアップできるでしょう。訪問介護は利用者さんの自宅で介護するため、施設とは違い、介護に適した環境が整っているとは限りません。訪問介護で臨機応変に対応できる力が身につけば、訪問介護以外の現場でも役立つでしょう。
ICT化で人手不足解消が期待される
ICTを導入すると、業務効率が上がったり情報共有がしやすくなったりします。ICTとは、「Information and Communication Technology」の略で、「情報通信技術」という意味で、デジタル化されたデータの作成や共有などを行う技術のことです。ICT化により、紙の書類を作成・保管する必要がなくなります。また、介護ソフトを使用することで、ケアプランの作成や利用者さんの情報管理、シフト管理などの作業を効率的に行えるようになり、少ない職員でも業務を完遂できるようになるでしょう。
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年齢に関係なく働ける
訪問介護事業所では、ミドル世代やシニア世代のホームヘルパーも活躍しており、体力的に問題がなければ年齢に関係なく働き続けられる職場です。訪問介護は施設介護と比較すると、より生活へ密着しており、利用者さん一人ひとりとのコミュニケーションも密になる傾向があります。
利用者さんと年齢が近いホームヘルパーは、高齢者の思いを汲み取って機転の利いた対応ができたり、これまでの人生経験を活かしてコミュニケーションを取れたりすることもあるでしょう。訪問介護事業所は、年齢を重ねているからこその強みが活きる職場です。
訪問介護に関するよくある質問
ここでは、訪問介護に関するよくある質問に回答します。「訪問介護への転職を検討しているけど不安…」とお悩みの方は、ぜひご一読ください。
訪問介護事業所が人手不足の理由は?
訪問介護事業所が人手不足の理由は、「少子高齢化」「給与の低さ」「業務に対するマイナスなイメージ」「資格が必要でハードルが高いこと」などです。事業所が人手不足を解消するには、採用を積極的に行ったり職員の能力に応じて昇給させたりする必要があります。働きやすい環境が整えば、自ずと人手が集まってくるでしょう。
訪問介護は仕事がないの?
訪問介護の需要は高く、仕事はあります。「訪問介護の仕事の魅力」で解説したように、2022年時点で100万人以上の方が訪問介護事業所を利用しており、今後も需要が高まるでしょう。
訪問介護の仕事内容は、身体介護や生活援助、通院等乗降介助といった生活に密接した内容といえ、自宅で生活する高齢者さんにとって必要なサービスです。
まとめ
訪問介護の仕事がなくなることはないといえます。訪問介護は、住み慣れた地域で長く暮らし続けるのをサポートする役割を担い、地域包括ケアシステムにとって必要なサービスです。
「訪問介護がなくなる」といわれる理由は、介護報酬の引き下げや総合事業への移管、倒産数の増加、AIやロボット技術の発展などです。訪問介護業界には、資格取得による転職のハードルの高さやスタッフの高齢化、人材不足などの課題があります。一方で、訪問介護の仕事は、「安定して働ける」「キャリアアップがしやすい」などの魅力も豊富にあります。
訪問介護の仕事で将来に不安があるという方は、「レバウェル介護(旧 きらケア)」へご相談ください。レバウェル介護(旧 きらケア)は、介護業界に特化した転職エージェントです。豊富な求人を取り扱っており、専任のアドバイザーがヒアリングをもとに希望条件に合った求人を紹介いたします。「高給与の職場で働きたい」「経営が安定している職場が知りたい」という方は、お気軽にご相談ください。
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